「田口早生」の栽培管理
 
1.来歴
 和歌山県有田郡吉備町において、興津早生の個体変異として発見された早生温州みかんで平成7年9月に品種登録された。
 
2.特徴
  (栽培特性)
 樹姿はやや開帳、樹勢はやや強、樹の大きさ及び枝梢の粗密は中程度、トゲは無、葉身の面積は中、長さ及び幅は中である。
和歌山県吉備町における発芽期は4月2半旬、展葉期は4月6半旬、開花始期は5月1半旬、開花盛期は5月3半旬である。
新梢の発生は中、長さ及び太さは中、結実性、生理落果及び隔年結果性は中である。苗木定植後の生育は土づくりや潅水、適正な防除等伴えば旺盛である。
 (果実特性)
 果実の外観は円、果形指数は130、果実の大きさは中、果皮の色は橙、油胞の大きさは中、密度は密、果面の平滑度は滑、果皮の厚さはやや薄から中、剥皮の難易は易である。じょうのう膜の硬さは軟、果汁の多少は多、甘味は多(糖度12度程度)、酸味は中、香気は少である。
和歌山県吉備町での着色始期は10月2半旬、成熟期は11月3半旬、果実肥大は良好である。夏期の高温乾燥と秋期の少雨により、果汁中の糖度は上昇する。減酸は興津早生よりやや早く、11月上旬には1%以下になるが、その後の減酸はやや鈍く、味は安定する。
 
2.穂木、苗木の確保
 苗木は充実した健全なもので登録証の貼付されたものを購入する。
 高接ぎ用穂木の導入に当たっては、採穂する母樹の状態(果実肥大状況、春葉の展葉状況等)からウイルスを保毒していないか慎重に確認する。
 高接ぎ樹からの採穂は行わない。
 
4.適地条件
 温暖多湿な西南暖地における一般的な栽培には特に問題はない。
高糖度で着色良く、浮皮の少ない果実を生産するには、夏期(7,8月)が高温乾燥で推移し、秋期(9〜10月)も少雨な地域で、且つ日照や排水の良い園地が好ましい。
 
5.苗木の定植・高接ぎ
 苗木定植に際しては植え穴の土づくり(客土、有機物投入)を十分に行う。
 初期の生育を促進するためには植え付け後の十分な潅水、適正な施肥、時宜を得た病害虫防除が重要である。
 苗木の栽植間隔は将来の作業性を考えて3〜5m×1.5〜3mの並木植えとする
 高接ぎ樹では、接ぎ木後2年間は結実させないで、樹勢の回復を図る。
 中間台木は樹齢の比較的若い樹を用いる。
 
6.整枝・剪定
 樹勢が旺盛で、樹冠の拡大は早いので、樹の内部まで十分な日照を確保するよう、樹形は開心自然形に仕立てる。但し、樹の生長が緩慢で樹勢の弱い園地では、開心自然形にとらわれず、自然形とする。
 高接ぎ樹では、主枝となる枝3本を45度の方向に伸長させ、開心自然形に仕立てる。その他の枝は水平に誘引して新梢発生・着葉を多くし樹勢回復と結実促進を図る。
 樹間は十分に広くとり、樹の赤道部から裾部まで日照が当たるようにする。枝と枝の間隔も広くして、側枝や結果母枝にまで十分明るさを保つようにする。これにより、適度な新梢発生と着花が得られ、連年結実し、着色・品質も向上する。
 ある程度群状に結実させるためには、結果母枝となる新梢は集中的に発生するように剪定する。群状結実では枝(=側枝または亜主枝)単位の交互結実とする。
  
7.施肥・潅水
 定植後3年間は樹冠の拡大を第一に考え、施肥・潅水を怠らないよう、特に栄養生長促進期で新梢の伸長が旺盛な春から初夏にかけての潅水と施肥に留意する。
 施肥量・施肥時期は10a当たりN成分で春肥(=3月上・中旬に8kg)、秋肥(=10月下旬に12kg)程度を施用する
 さらに、完熟・マルチ型では、春肥(3月上・中旬に6kg)、夏肥(=5月下旬に4kg)、秋肥(=11月上旬に10kg)程度の施用とする
 高品質生産のため、潅水は原則として少なくする。7月の潅水は果実肥大と減酸を促すが、糖度の上昇を阻害し、9月以降の降雨の影響を受けやすく、浮皮、糖度の低下などを助長するので控える。8月の潅水は糖度の上昇を緩め、浮皮、大玉果の原因となるので、極力控える。夏期の潅水は、樹勢の維持程度の少量とする。
 地形や土壌により、乾燥の程度が異なるので、園地の条件を考慮したきめ細かな潅水を心がけ、潅水の過剰による品質低下を招かないよう注意する。
8.結実管理
 高糖度果実生産では、着果程度をやや多めにして、M級果実が揃うよう群状結実とする。着果部位へは適度な日照が当たるよう枝の配置や摘果に留意する。
 さらに、着色促進、浮皮防止、糖度上昇を図る場合は秋期にマルチを行う。
 
9.病害虫抵抗性
 カイヨウ病、ソウカ病には抵抗性で、その他の病害虫防除は極早生種の一般的な防除体系に準じて問題はない。
 
10.収穫
 11月上旬以降で、ほぼ完全に着色し、減酸が進み、糖度の上昇した果実から収穫する。糖度は12%以上を目標とする。
 
                    (和歌山県果樹園芸試験場 小沢良和)
 
 
[参考] 果樹試験場での試食果実の品種別、糖度、クエン酸

年 月 日

品 種 名

糖 度

クエン酸

備考(糖度のMax,Min)

H9.11.13

 

田口
木村
宮川

11.8
11.4
10.7

0.97
1.09
1.02

Max=13.1、Min=11.0
Max=12.8、Min=10.4
Max=11.4、Min= 9.6

H10.11.05
 

田口
木村

12.5
11.9

0.88
0.90

Max=13.7、Min=11.1
Max=13.5、Min=10.1

H11.11.08


 

田口
木村
興津・宮川
マルチ

11.8
11.3
10.5
11.6

0.80
0.75
0.86
1.01

Max=12.9、Min=10.4
Max=13.1、Min=10.5
Max=11.0、Min= 9.7
Max=12.6、Min=11.1

H12.11.16



 

田口
木村
興津・宮川
マルチ
 

12.8
12.5
12.0
13.4
 

0.85
0.79
0.85
0.89
 

Max=14.5、Min=11.4
Max=14.0、Min=11.3
Max=12.4、Min=10.9
Max=14.7、Min=12.3
 
 
 



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